今シーズン、HUESにはこれまでで最も多くのTessitura La Colombinaの生地が届いています。
その中でも今回ご紹介するのは、Geoffrey B. Smallを代表するキモノコート。
ITEM: handmade double breasted notch-lapel long wrap fully-lined relaxed living kimono jacket
FABRIC: Entirely handwoven Tessitura La Colombina Advanced S-weave 100% Lana Tollegno 1900 wool w/ Pure Como Silk 16-momme raso satin exclusive geometrico sessanta print superlux lining
COLOR: hand wash black with orange/multi color silk geometrico sessanta print lining
SIZE: ONE SIZE
毎シーズン必ず作られるわけではありませんが、生地を変えながら繰り返し製作されている、Geoffreyでは馴染みのある一着です。
今回、そのキモノコートに使われたのが、2026-27年秋冬から新たに登場したColombinaの「Sinusoide S-WAVE」。
世界で初めて織られた、新しい手機生地です。
世界でわずか4着のみ製作され、そのうち日本へ届けられたのはHUESのためだけに仕立てられた1着。
Geoffreyが長年研究を重ねてきたオリジナルのキモノパターンをベースに、この特別な生地で仕立てられています。
使用されるのはLanificio Tollegno 1900の最高級ピュアウール。
それをイタリア・バドエーレ・ディ・モルガーノに工房を構えるTessitura La Colombinaが、18世紀から受け継がれる木製手機だけで織り上げています。
キモノコート一着分の生地を織るだけでも、およそ二日。
時間を掛けていることが価値なのではありません。
この方法でしか、この布にはならないからです。
最初にS-WAVEを見た時、これまでのColombinaとは少し違う印象を受けました。
節の強いものもあれば、厚みを持たせたもの、カシミヤを使ったものもありました。
でも、このS-WAVEはそのどれとも違います。
表面には細かな凹凸があります。
名前の通り、波が連続しているようにも見える独特の織り。
ただ、触ると印象はさらに変わります。
とにかく柔らかい。
薄くて柔らかいわけではありません。
しっかり厚みがありながら、一度握ると沈み込み、ゆっくり元へ戻る。
織物なのに、少しニットを触っているような感覚があります。
写真では、この感触までは伝わらないと思います。
ColombinaについてはHUESでも何度もご紹介してきました。
100年以上前の手機を今も使い、職人が一反ずつ布を織っているメーカーです。
ここだけ切り取ると、伝統工芸の話のようにも聞こえます。
でも、僕たちがColombinaを面白いと思っている理由はそこではありません。
100年前の機械が残っていることではなく、その機械を今も使っていること。
しかも昔と同じ布を織り続けているわけではありません。
Geoffreyと一緒に、新しい生地を作っています。
今回のS-WAVEもその一つです。
普通、生地は均一であることが求められます。
厚みも密度も、糸のテンションも揃っていた方が扱いやすい。
量産するなら、その方が合理的です。
でもColombinaは違います。
人が織っている以上、完全には揃わない。
糸の張り方も、打ち込みも、その日の湿度も少しずつ違う。
その揃わなさが、そのまま布に残っています。
S-WAVEの凹凸も、あとから加工して作ったものではありません。
糸を織った結果、そのまま生まれた表情です。
裏地にもGeoffreyらしい拘りがあります。
使用されているのは、イタリア・コモの名門Brenna FamilyがGeoffreyのためだけに製作する16匁のピュアシルクラソサテン。
1970年代ミラノの幾何学デザインと、グスタフ・クリムトから着想を得た「Geometrica Sessanta」がプリントされています。
さらにヴェネツィア・カヴァルツェレにあるアトリエで、すべて手洗い、成形、特殊加工を施し、自然な膨らみと柔らかさを引き出しています。
そして、このモデルはリバーシブル仕様。
表裏どちらも主役として着られるよう、内側まで美しく仕立てられています。
ダブルタイは結び方によって見え方を変えることができ、ポケットも表裏それぞれに配置。
シームポケットの内側まで、手織りウールとシルクで総裏仕立てとなっています。
こうして説明すると、このコートは生地や仕様ばかりに目が向きそうですが、この服の面白さは着て初めて分かります。
ハンガーに掛かっている時は、とても平面的です。
肩を強く作っているわけでもなく、ウエストを絞っているわけでもない。
でも袖を通した瞬間、印象が変わります。
肩から布が落ち、背中へ流れ、脇に溜まり、裾へ続いていく。
そこで初めて、このコートの形が現れます。
今回のS-WAVEは、その変化をより大きく見せてくれます。
柔らかさがあるので、生地が身体の動きに素直についてくる。
歩けば裾だけではなくコート全体がゆっくり揺れ、腕を動かせば脇の布が少し遅れて落ちてくる。
椅子に座れば腰に生地が溜まり、立ち上がるとまた自然に流れていく。
着ている間、同じ形を保つ服ではありません。
身体の動きによって、その都度シルエットが変わっていきます。
個人的には、正面の鏡を見るよりも、横から見た時の方がこのコートは面白いと思っています。
背中にはかなり布の分量があります。
それでも重たく見えない。
S-WAVEが柔らかいので、身体から少し離れ、また戻ってくる。
その距離感が、このコートにはあります。
表面の凹凸によって黒の見え方も一定ではありません。
光が当たる部分。
織りの谷になって影が落ちる部分。
歩くたびに、その黒も静かに動いていきます。
Geoffreyの服を紹介していると、「ハンドメイド」や「手機」という言葉を使う機会が多くなります。
でも、それだけで服が良くなるわけではありません。
手で作ること自体が目的になったら、あまり面白くない。
大切なのは、手で作った結果、何が変わるのかです。
S-WAVEなら、触れた時の柔らかさ。
織りのわずかな不均一さ。
そして、身体を動かした時の布の落ち方。
そこが既製の生地とは違います。
だからGeoffreyは、この生地を選んだのだと思います。
もう一つ、このコートを見ていて思うのは、特別な生地だからといって、特別な日に着る必要はないということです。
シャツの上から羽織ってもいい。
寒くなればニットの上でもいい。
前を開けてもいいし、袖を少しまくってもいい。
皺も気にしなくていいと思います。
Geoffreyの服は、新品が完成ではありません。
着ているうちに袖へ癖が付き、ポケットの口が少し柔らかくなり、生地が身体を覚えていく。
そこから少しずつ、その人だけの一着になっていきます。
100年以上前の手機と聞くと、過去の技術を残すための服のようにも聞こえます。
でも、このコートを着るとそんな印象はありません。
古い方法を守るためではなく、今着たい服を作ろうとした結果、この方法が必要だった。
だから今も手機を使う。
その方が、この服にはしっくりきます。
背景を知るのも面白いですが、このコートは最後にはそこへ戻ります。
柔らかい。
軽い。
そして、布が動く。
写真だけでは伝わりません。
ぜひ店頭で生地に触れ、一度羽織って、少し歩いてみてください。
その数歩で、このコートがなぜ特別なのか、きっと自然と伝わるはずです。
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HUES
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