Geoffrey B. Smallの秋冬を長く見ていると、何度も登場する生地があります。
イタリア・ビエラで織られる、カシミヤ&ヤク。
HUESでも毎年秋冬になると欠かさずオーダーしてきました。
ジャケットになったり、コートになったり、その年によって形は変わりますが、HUESの秋冬を考える上でも、今では欠かせない生地のひとつです。
そして今シーズン、そのカシミヤ&ヤクを使った中綿入りのコートが初めてHUESに届きました。
まず、このコートを考える上で外せないのが、やはり表地です。
カシミヤ&ヤクと聞くと、二つの素材を混ぜた生地という印象を持つかもしれません。
ただ、実際にはそのほとんどがカシミヤ。
ヤクは暖かさを補うために大量に混ぜられているわけではなく、Geoffreyが求める風合いを作るために、ほんの数%だけ加えられています。
カシミヤだけでは綺麗すぎる。
そこへ少量のヤクが入ることで、表面にわずかな粗さと奥行きが生まれる。
柔らかいのですが、ただ滑らかなだけではない。
何度か着て、少し毛並みが動いてきた頃の表情もいい。
Geoffreyがこの生地を長く使い続けている理由は、その辺りにもあるのだと思います。
しかも完成した生地を、そのまま仕立てて終わりではありません。
ヴェネツィア・カヴァルツェレのアトリエで、一着ずつ手作業で洗い、形を整える。
上質なカシミヤをさらにハンドウォッシュすることで、新品のカシミヤコートにありがちな均一な表情を少し崩しています。
だから、最初からどこか身体に馴染んだような柔らかさがある。
今回面白いのは、そのGeoffreyが大切にしてきた生地を使って、中綿入りの冬のコートを作ったことです。
もちろん、中に入っているものも普通ではありません。
一般的な中綿コートであれば、ポリエステルなどの化学繊維を使うことが多い。
Geoffreyが選んだのは、ベルガモで開発されたイタリア製のピュアシルクバッティングです。
非常に軽く、保温性があり、もちろん天然素材。
Geoffreyは以前から、服を作る上で天然素材を使うことを大切にしています。
それは表から見えるところだけの話ではありません。
中綿、裏地、縫い糸、ラベル。
普通なら化学繊維を使っても気付かないような場所まで、その考え方は徹底されています。
だから、防寒のための中綿入りコートを作る時にも、一般的な化繊の中綿を選ばない。
表地はビエラのカシミヤ&ヤク。
その内側にピュアシルクのバッティング。
さらに身体側の裏地にもピュアシルク。
言ってしまえば、これはGeoffrey B. Smallが考えるダウンコートのようなものなのだと思います。
暖かく、軽く、冬に毎日着られる。
防寒着として求められること自体は、とてもシンプルです。
ただ、それを何で作るのか。
身体を何で包むのか。
そこにGeoffreyの考えが出ています。
裏地には、イタリア・コモのBrennaファミリーがGeoffreyのために制作したピュアシルクのラソサテンを使用。
1970年代ミラノの幾何学模様から着想した、GBS限定の「Geometrica Sessanta」がプリントされています。
袖口には、ビエラ産ピュアメリノウールのジャージーニットカフス。
ポケットの内部にまで、コモシルクの裏地が張られています。
表から見える部分だけを豪華にするのではなく、着てしまえば見えなくなる場所にまで、かなり贅沢な素材を使う。
シルクバッティングも外からは見えません。
ポケットの中のシルクも、手を入れなければ分からない。
コートを着てしまえば、美しいプリントの裏地もほとんど見えません。
でも、着ている本人には全部分かる。
Geoffreyが大切にしているラグジュアリーには、こういう側面があります。
誰かに高価な服だと分かってもらうためではなく、着る人自身のために手間と素材を使う。
このコートは、特にそれが分かりやすい一着です。
仕立ても同様です。
ボタンには、パルマのClaudio FontanaとCinzia Fontanaによる特別なリアルホーンボタン。
厚みのある表地とシルクバッティング、裏地を貫くボタンホールは、Bozzolo Reale Milano Setaのピュアシルク糸を使って一つずつ手縫いされています。
ひとつのボタンホールを仕上げるだけでも12〜15分。
主要な縫い代には約2.5cmの余裕を残し、長く着た後でもサイズ調整や修理ができるように作られています。
ラベルまで、Mion SpAがGeoffreyのために製作した手染めのピュアシルク。
ここまでくると、何が見えるかではなく、何に身体を預けるのかという服なのだと思います。
そして、実際に袖を通してみると、このコートの話はもっと単純になります。
とにかく、軽い。
中綿入りのロングコートを手に取った時に無意識に想像する重さがあると思いますが、それより明らかに軽い。
そして、その軽さに対して驚くほど暖かい。
カシミヤを主体とした表地、ピュアシルクのバッティング、さらにシルクの裏地。
この三層が、厚く膨らむというより、身体の周囲を柔らかく包みます。
一般的なダウンジャケットのようなボリューム感とは少し違います。
着た瞬間に大きく膨らむのではなく、コートそのものが身体に沿いながら空気を含んでいるような感覚。
フードにまでしっかりと中綿が入っているので、首元を閉じた時の暖かさもかなりあります。
袖口にはメリノウールのニットカフスが入り、冷たい空気が入り込みにくい。
それでも身体を締め付ける感じはありません。
シルエットは、Geoffreyが長年のテーラリング研究から作った、ワンサイズのリラックスしたオーバーサイズ。
身幅もアームも十分に取られているので、厚手のニットやジャケットの上からでもそのまま羽織れます。
大きなフード、大容量のフラップポケット、ゆったりとした身頃。
見た目にはしっかりと冬のコートなのですが、着用感は想像以上に軽快です。
そして、長い時間着ているほど良さが分かる。
肩が重くならない。
身体が暖かい。
裏地のシルクが滑らかで、ニットやジャケットの上からでも引っ掛からない。
ポケットに手を入れれば、そこにもシルクがある。
どれも写真では伝わりにくいことばかりです。
でも、毎日着るコートなら、むしろこちらの方が大事なのかもしれません。
Geoffreyが大切にしてきたビエラのカシミヤ&ヤク。
そこへ、シルクの中綿を入れる。
さらにコモシルクで身体を包む。
とても暖かく、とても軽い。
そして、その理由のほとんどは外から見えない。
Geoffreyが冬のための防寒着を作るなら、こうなる。
HUESでは初めてご紹介する、Geoffrey B. Smallのパデッドコートです。














