Geoffrey B. Smallのシルクシャツには、ただ美しいだけでは終わらない奥行きがあります。
シルクの光沢。
滑らかな肌触り。
上質な生地。
もちろん、それだけでも十分に特別です。
けれど、Geoffrey B. Smallがコモのシルクを使う理由は、もう少し深いところにあるように思います。
誰が作った生地なのか。
どこで作られたのか。
どんな時間や技術が、その布に含まれているのか。
そうした背景まで含めて、一枚の服として考える。
そこにジェフリーらしさがあります。
今回ご紹介するシャツは、HUESのためだけに製作されたシルクシャツです。
世界で作られたのは、わずか2着。
そのどちらも、HUESのために仕立てられたワールドエクスクルーシブモデルです。
使用されているのは、イタリア・コモで製作されたピュアシルク16匁のラソサテン。
柄の名前は、“Geometrica Sessanta Rustica”。
1970年代のミラノ近郊にあった古い農家の空気をもとにした、幾何学柄のエクスクルーシブプリントです。
製作を手掛けたのは、コモのBrenna family。
コモは、長くシルク産業を支えてきた土地です。
ただ、Geoffrey B. Smallにとって大切なのは、「コモ製」という響きだけではありません。
その土地で受け継がれてきた技術。
家族によって守られてきた感覚。大きな生産の中では拾いきれない、小さな判断の積み重ね。
そういったものが、生地の中に残っていること。
ジェフリーがコモのシルクを使い続ける理由は、きっとそこにあります。
“Geometrica Sessanta Rustica”という柄も、このシャツをよく表しています。
幾何学的でありながら、どこか素朴。
シルクサテンでありながら、冷たくない。
艶がありながら、生活から遠く離れていない。
シルクシャツと聞くと、もっとドレス寄りで、綺麗に整ったものを想像するかもしれません。
けれど、このEV12S10specialは少し違います。
光はあります。
でも、強く主張しすぎない。
柄もあります。
でも、装飾だけで見せているわけではない。
美しい生地でありながら、どこか人の手に近い温度がある。
そこが、このシャツの良さだと思います。
仕立てられたシャツは、ヴェネツィア近郊カヴァルツェレにあるGBS Superworkroomsで、一点ずつ手作業によって洗い、整え、仕上げられています。
シルクをあえて洗う。
普通であれば、シルクの艶や滑らかさは、そのまま保とうとするものかもしれません。
でもGeoffrey B. Smallは、素材を遠くに置いたままにしません。
水を通し、手で整え、少しだけ布をほぐす。
そうすることで、コモのシルクが「眺めるための高級素材」ではなく、「着るためのシャツ」へ近づいていきます。
新品でありながら、硬さがない。
綺麗なのに、どこか身体に馴染みそうな気配がある。
それは、古く見せるための加工ではなく、布を服として生かすための時間です。
細部にも、同じ考え方が通っています。
ヨークやカフスまわりには、ターコイズカラーのピュアシルク糸によるハンドステッチ。
プリントの中に沈みながら、近くで見ると確かに手の跡が残っています。
縫製は、シングルニードルによるダブルステッチ。
内側はフレンチシームで丁寧に処理されています。
表から見える柄や素材だけではなく、肌に触れる場所、着た時に負荷がかかる場所まで、きちんと整えられている。
こういう見えにくい部分にこそ、Geoffrey B. Smallの服作りが出ています。
ボタンは、イタリア・パルマのClaudio and Cinzia Fontanaによるリアルホーンボタン。
Geoffrey B. Smallのためだけに作られた、艶を持つホーンボタンです。
そして、そのボタンを受けるボタンホールは、Bozzolo Milano Seta Realeのピュアシルク糸による手縫い。
このシャツには10個の手縫いボタンホールがあり、ひとつを仕上げるのに10分から12分。
ボタンホールだけで、2時間以上の手仕事がかけられています。
ただ、時間がかかっていることだけを伝えたいわけではありません。
ボタンを留める。
袖口に触れる。
襟元を整える。
シャツを着る時に必ず触れる場所に、きちんと手を入れている。
そのことが、この服の印象を静かに支えています。
首元には、Mion SpAによるピュアシルクラベルが手縫いで付けられています。
プラスチックポリエステル糸を使わずに作られたラベルです。
表からは見えにくい部分ですが、こうした場所まで省略しない。
素材、糸、ボタン、縫い代、ラベル。
それらが一枚のシルクシャツとして、自然につながっています。
ここからは、着用感を。
ラグランスリーブを用いたボタンダウンフロントのシルクシャツです。
一般的なシャツのように肩線で形を決めるのではなく、肩から袖へ布が自然に流れていく構造。
背面には、キーストーンアーチを思わせる独自のヨーク構造が入っています。
袖を通すと、肩まわりに力が入りません。
シルクが身体に張り付かず、少し遅れて落ちる。
16匁のシルクサテンらしい重みがあるので、軽さの中にもきちんと落ち感があります。
着丈はやや長め。
前を閉じると、柄のあるシルクシャツとして端正に見えます。
前を開けると、軽い羽織りのようにも使えます。
短く整えたシャツではなく、布の流れを残して着るシャツです。
黒いパンツと合わせると、プリントの輪郭が引き締まります。
ウールギャバジンのような落ちる生地と合わせると、シルクの光沢が少し沈んで見える。
リネンやコットンのパンツと合わせると、“Rustica”という名前にある素朴さが少し前に出ます。
シルクシャツでありながら、ドレスに寄りすぎない。
少し着崩した方が、この服は自然に見えます。
襟元を少し開ける。
袖を軽くたくし上げる。
前を開けて、インナーの上から羽織る。
特別なシルクシャツですが、飾っておくための特別ではありません。
コモのシルクを、日常の中で着られる服にする。
手仕事を説明だけで終わらせず、着る動作の中に残す。
高級素材を遠くに置かず、身体の近くへ戻す。
EV12S10specialは、Geoffrey B. Smallが考えるシルクシャツのかたちが、よく表れた一着だと思います。
HUESのために、世界で2着だけ製作されたシルクシャツ。
その特別さは、数だけではありません。
コモのシルクをどう考え、どう扱い、どう着る服へ変えたのか。
その過程が、この一枚には残っています。








