Geoffrey B. Smallの服を見ていると、ときどき不思議な感覚になります。
テーラードなのか、アルチザンなのか。
クラシックなのか、モードなのか。
どこかに分類できそうで、どれにも収まりきりません。
今回ご紹介するトラウザーも、まさにそんな一本です。
ITEM: double-pleated exaggerated volume trouser
FABRIC: Luigi Parisotto 56% wool, 44% cotton
COLOR: hand wash navy blue
SIZE: 44, 46
World exclusive for HUES
一見すると極端なワイドパンツです。
深いプリーツが入り、裾まで大きく広がるシルエット。
けれど穿いてみると、単純な太さとしては感じません。
むしろ生地の動きばかりが印象に残ります。
まず目が向くのは生地です。
Geoffreyの服はいつもそうですが、デザインより先に生地が語り始めます。
使用されているのはイタリア・ヴィチェンツァのLuigi Parisottoによる「Venezia」と名付けられたSuper120'sダブルツイストコットンクロス。
Super120'sという言葉だけを見るとウールを連想しますが、この生地はコットンです。
しかも一般的な高密度コットンとも少し違います。
触れると驚くほど滑らかです。
ただ柔らかいだけではありません。
適度な反発があり、布が自分の形を保とうとする力が残っています。
Geoffreyは昔から生地の研究者のような一面があります。
服を作るというより、生地をどう成立させるかを考えているように見える時があります。
この生地にもその感覚があります。
さらにこのパンツは完成後にカヴァルツェレのアトリエで一点ずつ手染めされています。
染色工程だけで16時間以上。
数字だけ聞くと大げさに聞こえます。
しかし実物を見ると納得します。
単色には見えません。
ネイビーともブルーともチャコールとも言い切れない。
色が重なり、沈み、また浮かび上がる。
古い家具の木肌や長年使い込まれた革に近い見え方です。
工業製品なら避けるはずの不均一さを、そのまま仕上げとして成立させています。
Geoffreyの服を初めて見た時、多くの人がヴィンテージを連想します。
ただ実際にはヴィンテージの再現ではありません。
新品なのに時間が流れているように見える。
その矛盾がGeoffreyの服にはあります。
このパンツもまさにそうです。
また、ボタンホールもすべて手作業。
一つ仕上げるのに10分以上かかると聞けば非効率そのものです。
けれどGeoffreyの服を見ていると、効率という基準が最初から存在していないように思えます。
コロゾボタンはパルマのFontana工房製。
シルク糸による手縫いボタンホール。
Mion社によるシルクラベル。
どれも単体で語れるほど手間が掛かっています。
ただ不思議なことに、実物を前にすると細かな仕様より全体の空気が先に伝わります。
作り込みを誇示する服ではありません。
見ようと思えば見える。
見なければ気付かない。
その距離感があります。
穿くとシルエットはさらに変化します。
深いプリーツによって生まれる分量感。
裾へ向かって落ちる大きなドレープ。
ワイドパンツですが、横へ広がるというより縦へ流れる印象です。
歩くたびに生地が揺れ、立ち止まるとまた別の形になります。
固定されたシルエットではありません。
身体の動きによって形が更新され続けます。
昔のアルチザン黎明期の服にも似た感覚があります。
完成された形を見せるというより、着ることで服が成立していく感覚です。
最近は綺麗に整ったワイドパンツも増えました。
それはそれで良いと思います。
ただ、このパンツには少し違う面白さがあります。
均一ではない染色。
手作業で残された痕跡。
過剰なほどの縫製仕様。
そして動き続けるシルエット。
完成品というより途中経過のようにも見えます。
だから何年経っても古く見えないのかもしれません。
むしろ着込まれてからが本番なのかもしれません。












