Archivio J.M.Ribotの服を見ていると、現代のファッションとは少し違う時間が流れているように感じます。
新しい服でありながら、どこか古い。
手に取る前から、すでに誰かの記憶を含んでいるように見える。
それは単にヴィンテージ素材を使っているからではありません。
生地、ボタン、レース、古い衣服の一部。
過去に存在していたものを、もう一度現在の服として立ち上げる。
そこには、ただ懐かしむだけではない、Archivio J.M.Ribot独自の考え方があります。
今回は、Archivio J.M.RibotのデザイナーであるKarim Faresに、
ブランドの成り立ち、服作りへの考え、ヴィンテージ素材を使う意味、そして日本やHUESについて話を伺いました。
Q. Archivio J.M.Ribotとは、どんなブランドですか?
Archivio J.M.Ribotは、イタリアですべて手作業によって制作される、衣服とオブジェのアルチザンプロジェクトです。
私たちの作品の多くは、ヴィンテージやアンティークの素材から作られています。
古い生地、ボタン、過去の衣服から採取したディテールなどです。
ハンドクラフトは、私たちの活動の中心にあります。
そのため、生産数も自然と限られます。
Archivio J.M.Ribotのすべての衣服はイタリアで制作されています。
オーバーロックミシンは使わず、時間をかけた伝統的な縫製技法によって仕立てています。
私たちは、昔ながらの方法論に深い愛着を持っています。
そして「制作という行為に、もう一度時間と価値を取り戻すこと」を大切にしています。
ただ同時に、このプロジェクトのインスピレーションをすべて説明するのは難しいとも感じています。
むしろ、多くを説明しすぎるより、それぞれの人が自分の感性や経験を通して自由に感じ取ってくれることを望んでいます。
創造性というものは、説明されすぎることで何かを失ってしまうことがあるからです。
Q. ヴィンテージの素材やパーツを現代に甦らせる意味とは?
「Archivio」は、イタリア語で“アーカイブ”を意味します。
このプロジェクトは、私自身がブランドを始める以前から、ヨーロッパ各地で長年集めてきたアンティーク素材のアーカイブから始まりました。
そこには、ヴィンテージファブリック、ボタン、装飾、レース、古い衣服、アンティークオブジェなど、20世紀初頭以降のさまざまなものが含まれていました。
私は昔から、「時間に触れられたもの」には特別な美しさが宿ると感じています。
時間は、生地の風合いや褪色した色、不均一さ、そして“誰かの人生を一度通過してきた”という感覚を残します。
それは再現できるものではありません。
私たちはそれを、素材そのものに保存された“記憶の層”のように捉えています。
私にとって、この触覚的で、物質的で、仕立てに宿る記憶こそが、私たちの作品の最も深い部分のひとつです。
ただ、私たちが興味を持っているのは単なるノスタルジーではありません。
大切なのは、それらの記憶を現代的な感性へと翻訳し、新しい形として現在に生かし続けることです。
ヴィンテージ素材は、主にイタリア、フランス、イギリスから集めています。
異なる時代、異なる素材が、一着の中で混ざり合う。
私は、そうした異なる背景が、ひとつの衣服の中で共存することに惹かれます。
昔は、ボタンがひとつ無くなれば、その時手元にある別のボタンで付け替えるのが普通でした。
少なくとも、私の祖母はそうしていました。
私は昔から、均一性や完璧な対称性にあまり惹かれません。
少なくとも私にとって、本当の美しさは、非対称性や不完全さの中に宿るものだと思っています。
Q. どういう思いで、洋服やコレクションを作っていますか?
私はいつも直感に従い、制作の過程で自分の感覚に誠実であろうとしています。
自然素材の糸。
天然染料。
職人的な仕上げ技法。
そういったものに強く惹かれています。
衣服は、伝統的なテーラリングの考え方に基づいて制作しています。
ボタンホールはすべてシルク糸による手縫いで、多くの工程も手作業で行われます。
また、オーバーロックミシンのような工業的な大量生産の工程は、意識的に避けています。
私にとって、この“職人的な遅さ”には、現代において大きな意味があります。
今の社会やファッション業界は、スピード、大量生産、過剰消費によって動かされているように感じます。
だからこそ、その逆を選ぶことに価値がある。
制作のプロセスに時間を取り戻すこと。
服の中に、配慮や忍耐、人の存在を宿らせること。
私たちの服は、別の時間軸に属しているようなものだと考えています。
クラフトマンシップが贅沢品ではなく、尊厳と永続性を持った自然なものづくりだった時代。
私たちの服は、その感覚をどこか反映しているのかもしれません。
私たちのプロジェクトは、とてもクラフト的なものです。
だから、コミュニケーションの方法も控えめです。
常に露出し続け、消費され続ける文化を、私たちはあまり信じていません。
ノイズや広告、イメージで溢れた世界だからこそ、静かに語ることの方が強い行為になることもあります。
私たちは、服がそれぞれの人と、ゆっくり個人的に対話していくことを望んでいます。
Q. 洋服だけではなく、香水や人形、オブジェまで制作する意味とは?
このプロジェクトは、最初から単なる服作り以上のものとして考えていました。
私は昔から、民俗文化や、ヨーロッパの“ヴンダーカンマー”の美学に強く惹かれていました。
ヴンダーカンマーとは、16世紀から18世紀頃に見られた、珍しいオブジェや記憶、異なる世界の断片が共存する詩的な空間です。
私は長年、蚤の市や倉庫、個人宅などでさまざまな物を集めてきました。
それらは私個人のコレクションでもあり、服と同じくらい、このプロジェクトの重要な一部です。
実際、今後はこの“オブジェクト”の側面にもっと力を入れていきたいとも思っています。
以前も話したように、私は物や人間に刻まれた“時間の痕跡”に強く惹かれます。
時間の痕跡をまとい、静かに物語や背景、魂を感じさせるもの。
そういうものには、特別な力があります。
その痕跡は、シミや傷、不完全さとして現れることもあります。
でも私にとっては、それこそが最も貴重なものです。
まるで過去から贈られた、小さなギフトのように感じます。
Q. Archivio J.M.Ribotの服を、どのように着てほしいですか?
私は、人々が自分自身らしく、心地良いと感じる方法でArchivio J.M.Ribotを着てくれたら嬉しいです。
スタイルとは、ルールではありません。
その人の個性や感性、生き方が自然に表れるものであるべきだと思っています。
本当に大切なのは、自分自身と、自分の感情に対して誠実であることです。
私は個人的に、“ファッション”や“トレンド”という言葉に、あまり強い結びつきを感じてきませんでした。
それらは時に作られすぎていて、一時的で、本来の個性から離れているように思えるからです。
私が美しいと思うのは、不完全さや自然さです。
そして、ファッションではなく“人格”から滲み出る静かなエレガンスです。
本当に意味があるのは、トレンドではありません。
その人自身の感覚や感情です。
本当の美しさやスタイルとは、オリジナリティの中にあります。
不完全さ、非対称性、感情、個性の中に宿るものだと思っています。
Q. ブランド設立10周年を迎えて、どう感じていますか?
良い気持ちです。
ある意味では、10年というのは単なる数字かもしれません。
でも、パートナーたちと共に歩んできた道を振り返り、祝う時間を持つことは大切だと思っています。
個人的に最も嬉しいのは、今でも自分のやっていることを心から愛せていることです。
だからこそ、まだ旅の始まりにいるような感覚があります。
Q. 10年続けてきて、最初と変わらないもの、逆に変わったものはありますか?
人生とは、常に学び続けることだと思っています。
自分自身に誠実でいること。
そして感性を変化させ続けること。
Archivioでも、常にそうありたいと考えてきました。
本質を失わずに成長すること。
自分たちらしさを保ちながら、進化していくことです。
最近では、特別なテキスタイルを開発するために、いくつかの優れた生地メーカーとも協業を始めました。
今でもヴィンテージ素材を優先していますが、新たに開発した素材とのバランスも慎重に取るようになっています。
創造において、進化は常に必要なことだと思っています。
一方で、私たちの核となる部分は変わっていません。
それは常に、“対立するもの同士の調和”を探すことです。
美しさと朽ち。
惹きつけるものと、少し拒絶感のあるもの。
脆さと強さ。
その間にある均衡を、私たちは探し続けています。
Q. 今後のArchivio J.M.Ribotについて教えてください。
プロジェクト本来の精神へ立ち返り、アンティークオブジェや家具のデザイン、再構築にもっと取り組んでいきたいと思っています。
それは当初からあったアイデアですが、これまで十分に展開できていなかった部分でもあります。
今後は、この方向性をより深く探求していきたいです。
Q. あなたがArchivio J.M.Ribotをライフワークとする理由は?
私にとって、今やっていることは、自分自身の自然な延長線上にあります。
すべては、とても自然に始まりました。
意味のあるものは、一夜では生まれません。
私は結果と同じくらい、“過程”が大切だと思っています。
最初は、純粋な興味から始まりました。
ヴィンテージやアンティークの服、生地、ボタン、レース、オブジェを集めること。
当初は明確な目的があったわけではありません。
でも長い年月を経て、このアーカイブから何かを生み出し、新しい命を与えたいと思うようになったのです。
これからも、自分がそこに繋がりを感じ、制作を楽しめる限りは続けていくと思います。
直感や好奇心に従いながら、自分にとって意味のあるものを作り続けたい。たとえ将来、それが衣服とは別の形になったとしても。
Q. 世界を回る中で、日本にどのような印象を持っていますか?
若い頃から、日本文化には深い憧れを抱いていました。
Jun TakahashiやTakahiro Miyashitaのようなアンダーグラウンドなファッションデザイナー。
Tadao AndoやKengo Kumaといった建築家。
Yayoi KusamaやKatsushika Hokusaiなどの芸術家。
そして、“侘び寂び”の考え方。
それらから大きな影響を受けてきました。
今では日本は、私たちにとって最も重要なマーケットのひとつになっています。
長年愛してきた文化と、強い繋がりを持てていることをとても嬉しく思っています。
私が日本で最も素晴らしいと思うのは、今でも独自性や伝統、ルーツをしっかり守り続けていることです。
世界がどんどん均質化していく中で、それは非常に貴重で、刺激的なことだと思っています。
Q. HUESについての印象を教えてください。
正直に言うと、私はいつもHUESのセレクションに嬉しい驚きを感じています。
HUESは、Archivio J.M.Ribotに対して、とても個人的で独自性のある視点を持っていると感じています。
そのことを、本当に高く評価しています。
私にとって、HUESのアプローチには、遊び心と洗練の両方があります。
私たちの服を、HUES独自の感覚やビジュアル言語でスタイリングしてくれる。
そこに大きな価値を感じています。
また、私たちのプロジェクトを深く理解しながらも、自分たちなりの視点で再解釈する自信を持っているように感じます。
そのバランスはとても貴重です。 このコラボレーションを嬉しく思っている理由のひとつでもあります。
Q. 愛着のある日用品や、身につけているものはありますか?
記憶や感情を宿した物には、たくさん愛着があります。
時には、自分自身の人生に直接関係していないアンティークであっても、直感的に強く惹かれることがあります。
個人的なもので言えば、まず思い浮かぶのは、いつも腕につけているヴィンテージウォッチと、1960年代の古いVespaです。
今でもローマの街を、そのVespaで走っています。
どちらも祖父の持ち物だったもので、多くの記憶が詰まっています。
ある意味で、それらは過去と現在を個人的かつ具体的な形で繋ぎ、人生に連続性や意味を与えてくれる存在なのです。
Q. 最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
これまで私たちの活動を支え、共感してくださったすべての方々に感謝しています。
私たちにとって最も大切なのは、単なるサポートそのものではありません。
人々が私たちの感性やビジョン、そして作品の背後にある感情に、本当に共鳴してくれているということです。
私たちのようなインディペンデントなプロジェクトは、本物の人間関係や相互の信頼によって支えられています。
そして、今なお真正性やクラフトマンシップを信じてくれる人々によって存在できています。
そのことに、心から感謝しています。 ありがとうございます。
Archivio J.M.Ribotの服には、分かりやすい新しさとは違うものがあります。
古い素材を使っているから古いのではなく、過去の記憶を現在の服として生かしている。
手作業だから特別なのではなく、服の中に人の時間が残っている。
均一ではないこと。 完全ではないこと。 時間の跡があること。
Karim Faresの言葉を聞いていると、Archivio J.M.Ribotがなぜこのような服を作り続けているのかが、少し見えてきます。
それは、過去へ戻るためではありません。 時間に触れられたものを、今の人がもう一度着るために。
そして、その服がまた新しい記憶を持つために。
Archivio J.M.Ribotの服は、そうやって続いていく服なのだと思います。












